高齢者の単身世帯の66.2%が自宅という不動産を所有している日本では、相続財産に不動産が含まれているケースが多く存在し、今後も増え続けることが予想されます。
そこで、所有者不明の土地の発生を減らすため等の方策として、2021年4月に相続登記や住所変更登記を義務化する法改正が成立し公布されました。
2021年8月時点で、相続登記の義務化の施行日は未定ですが、3年以内に施行される予定となっています。
義務化は決まったものの、施行まで時間があるがゆえに被相続人名義のまま不動産を放置してしまう方も少なくはありません。しかし、相続登記をしないまま不動産を所有することにはリスクもあるため、可能な限り早めに行うべき手続きなのです。
今回は、相続登記の必要性や手続きの流れ、未登記のまま放置した場合に起こり得るリスクに関して詳しく説明していきます。
(参考:総務省統計局 平成30年住宅・土地統計調査 調査の結果「住宅及び世帯に関する基本集計」)
(参考:法務省 「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」の概要)
目次
相続登記とは?
亡くなった被相続人名義の不動産を、相続人の名義へ変更することを、相続登記といいます。
相続人同士の話合いや遺産分割協議書の作成だけで、名義変更が完了したと勘違いしてしまう方もいますが、不動産の名義変更には必ず登記をしなくてはなりません。
登記をすることにより、初めて第三者に不動産の所有権を主張できる状態となり、売却や融資を受けるための担保にすることができるようになるのです。
相続登記の期限
相続放棄は相続の発生を知った日から3か月以内、相続税の申告・納付は相続の発生を知った日の翌日から10か月以内と期限が設けられており、2021年4月に公布された改正(施工日は公布後3年以内)で相続登記も不動産の取得を知った日から3年以内の登記申請が義務付けられることになりました。
これまでは、相続登記をせずに不動産の名義が被相続人のままでも罰則を受けることはありませんでしたが、義務化が施行されれば、正当な理由のない登記申請漏れには過料の罰則を受けることになります。
しかし、相続で売却も活用も難しい土地を取得してしまった場合など、手放したいという方も少なくありません。
そのため、相続登記の義務化とともに相続土地国庫帰属法という、相続等により取得した土地の所有権を国庫に帰属させる制度も新設されることが決定しています。
施行後も、不動産の取得を知った日から3年以内という比較的長い期限はありますが、相続登記をしなければ様々なリスクやトラブルが発生してしまうおそれがあります。トラブルの原因になってしまう前に、相続登記は可能な限り早めに行うのがベストでしょう。
相続登記をしないリスク
相続登記は、話合いがまとまっていたり、相続人同士でもめたりしていなければ問題ないと手続きを後回しにしてしまいがちです。
しかし、相続登記をしないままでは下記のようなリスクがあるため注意が必要です。
- 不動産を売却できない
- 不動産を担保に融資を受けることができない
- 相続人が高齢化してしまい、手続きが難しくなる
- 新たな相続が発生して煩雑化する
- 次の世代の負担が大きくなってしまう
- 他の相続人の持分が差押えになる
- 必要書類の収集が困難になる
- 期限を超えると過料の罰則を受ける(※施行日未定)
不動産を売却できない
亡くなった被相続人名義のままでは、土地や建物などの不動産を売却することはできないため、売却をする場合には必ず事前に相続登記が必要になります。
そのため、急遽まとまったお金が必要になり不動産を売却しなくてはいけない状況に陥ったとしても、相続登記がされていなければ、まずは相続登記の手続きから行わなくてはなりません。
場合によっては相続登記に時間を要して売却のチャンスを逃してしまったり、必要な期間内に不動産を売却できなくなったりしてしまうおそれもあります。
不動産を担保に融資を受けることができない
不動産の売却と同様に、相続した土地や建物を担保に融資を受けるためには、事前に相続登記が必要です。
急いで融資を受けなくてはいけない状況だったとしても、相続登記がされていない状態では不動産を担保に融資を受けることはできないため、相続登記は早めに行うことをおすすめします。
相続人が高齢化してしまい、手続きが難しくなる
相続発生後、長期的に放置すると相続を受けた相続人が高齢化していき、遺産分割協議も容易にはできなくなってしまうおそれがあります。
認知症などで相続人の判断能力が低下してしまうと、成年後見人を選任しないことには遺産分割協議をすることもできなくなってしまいます。
成年後見人の選任には時間も要してしまい、更に相続人と後見人の意見が分かれて、協議が難航してしまうこともあるため、長期にわたって放置してしまわぬよう注意が必要です。
→詳しくはこちら「障害者や認知症の相続人がいる場合の遺産分割」
新たな相続が発生して煩雑化する
相続が発生し、相続登記などの手続きを完了していない状態のまま、相続人の相続が発生してしまうことを数次相続といいます。
例えば、被相続人である父の相続人に、配偶者である母、子供Aと子供Bがいたとします。(一次相続)
この3人の相続人が相続登記などを行わないまま、子供Bが亡くなって相続が発生し(二次相続)、その相続人が妻と孫Cだったとします。
このような状況で、一次相続の被相続人である父名義の不動産の相続登記をするためには、配偶者である母、子供Aだけではなく、二次相続の子供Bの相続人である妻と孫Cも含めて遺産分割協議をしなくてはならないのです。
このように数次相続が発生して相続人が増えてしまうと、連絡をとることですら難しくなったり、遺産分割協議で意見が割れてしまったりするリスクが上がってしまうおそれがあります。
→詳しくはこちら「法定相続人と相続分」
次の世代の負担が大きくなってしまう
相続登記をしないまま長期的に放置していると、前述したようにいずれは数次相続が発生します。数次相続が発生してしまうと、一次相続の相続登記、二次相続の相続登記というように、複数回分の相続登記をしなくてはいけません。
相続登記にかかる費用も登記の回数に応じて増えるため、相続登記をしないまま放置することにより、次の世代の負担を増やしてしまうことになります。
相続の手続きにかかる費用を抑えるために相続登記をしないという方もいますが、結果的に子供や孫に費用を負担させてしまうことになるのです。
他の相続人の持分が差し押さえられるおそれがある
遺産分割協議によって単独で不動産を相続する話でまとまっていたとしても、相続登記が完了していなければ、相続人の共有名義の不動産となります。
そのため、共同相続人がローンの返済を滞納してしまうなどして、その相続人の持分が差し押さえられたり破産管財人による換価の対象となることがあります。
差し押さえられたり破産管財人が換価した持分はいずれ競売や破産管財人による換価によって取得した、全く関係のない第三者との共有名義の不動産になってしまうのです。この状況から不動産を自分1人の名義に変更するためには、相手方の持分を買い取らなくてはなりません。
そのため、このような状況に陥ってしまうと、相続登記をするよりも費用が高額になってしまうのです。
また、競売で落札された後に落札した第三者が共有物分割請求の訴訟を起こす場合があります。共有物分割請求の訴訟を起こされてしまうと、裁判所によって持分だけでなく不動産全体を競売されてしまうリスクが発生します。
このように、遺産分割協議がまとまっているからといって、相続登記を期限ぎりぎりまで行わず後回しにしてもよいというわけではないのです。
必要書類の収集が困難になる
相続登記をするためには、被相続人の住民票の除票や出生から死亡までの戸籍謄本等を揃えなくてはいけません。
しかし、相続登記に必要な被相続人の書類には保管期限があるため、長期にわたって放置すると自分たちで必要書類を収集することが困難になってしまいます。
被相続人の戸籍謄本は150年間という長期にわたって保管されますが、住民票の除票の保管期限は5年間となっています。住民票の除票の保管期限を過ぎてしまった場合、戸籍の附票等を取得できるかどうかを調べなくてはならず、司法書士等の専門家へ依頼をせずに相続登記を完了させることは難しい状況となります。
期限を超えると過料の罰則を受ける(※施行日未定)
前述したように、相続登記の義務化が施行されると不動産の取得を知った日から3年以内に登記申請をしなくてはならなくなります。
そのため、この期限を過ぎてしまうと過料の罰則の対象となり、通常よりも登記にかかる費用が増えてしまうのです。
相続登記は自分でできるのか
遺産分割も滞りなく進み、相続が煩雑化していない基本的な相続登記であれば、司法書士等の専門家に依頼せずとも自分たちで相続登記を行うことも難しくはありません。
また、相続登記の義務化に伴い、義務を容易に履行できるよう相続人申告登記も新設されます。
自分たちで相続登記を行えば、専門家への報酬の支払いがないため、登録免許税や印鑑証明書などの必要書類の収集にかかる費用だけに抑えることができます。
自分たちで相続登記を行う場合、法務局の窓口、郵送、オンラインから申請を行うことになります。しかし、専門的な知識を有していない一般の方には、不備なく相続登記の申請を行うことは簡単なことではありません。
たとえ基本的な相続登記であっても仕事などで平日に役場や法務局等に行く時間をつくれず、相続登記に必要な書類の収集すらも進まないという方もいます。
司法書士等の専門家に相続登記を依頼する場合、必要書類の収集も代行してもらうことができるため、基本的な相続登記であっても平日の日中に時間をつくることが難しい場合は、司法書士等の専門家への依頼をおすすめします。
また、相続の状況にもよりますが、一般的に3万円~7万円ほどで司法書士等の専門家に相続登記を依頼することができるため、遺産分割協議でもめていたり、代襲相続や数次相続などで状況が煩雑化していたりする場合には、司法書士等の専門家へ依頼をするのが最善といえるでしょう。
相続登記の流れと必要書類
相続登記に必要な書類や手続きの流れは、不動産をどのように分割するのかによって異なります。
不動産の一般的な分割方法には、法定相続どおりに行う分割、遺産分割協議の内容に沿った協議分割、そして遺言書の内容に沿った指定分割があります。
(参考:法務省 「法務局における自筆証書遺言書保管制度について」)
相続登記を申請するまでの流れと同様に、登記に必要な書類も不動産の分割方法によって異なります。
必要書類
法定相続による登記 | 遺産分割協議による登記 | 遺言による登記 | |
---|---|---|---|
被相続人に関する書類 | 被相続人の戸籍謄本 (※出生から死亡まで) |
被相続人の戸籍謄本 (※出生から死亡まで) |
被相続人の戸籍謄本 |
被相続人の住民票の除票 | 被相続人の住民票の除票 | 被相続人の住民票の除票 | |
ー | ー | 遺言書 (※秘密証書遺言、法務局以外で保管していた自筆証書遺言は検認済みのもの) |
|
相続人に関する書類 | 相続人全員の戸籍謄本 | 相続人全員の戸籍謄本 | 不動産の相続人の戸籍謄本 |
相続人全員の住民票 (※相続人全員が不動産を相続するため) |
不動産の相続人の住民票 | 不動産の相続人の住民票 | |
相続関係説明図 | 相続関係説明図 | ー | |
ー | 遺産分割協議書 | ー | |
ー | 相続人全員の印鑑証明書 | ー | |
その他 | 相続登記申請書 | 相続登記申請書 | 相続登記申請書 |
固定資産評価証明書 | 固定資産評価証明書 | 固定資産評価証明書 |
相続放棄をした相続人や、遺言によって相続人以外の第三者が受遺者となる場合などは、更に上記とは申請書に添付する書類が異なるため、必要書類の判断が難しい場合は、書類の収集から司法書士等の専門家へ依頼することをおすすめします。
→詳しくはこちら「遺産分割協議とは?なぜ必要なのか」
→詳しくはこちら「【不動産と相続】遺産分割での土地・建物の評価方法」
共有名義で相続登記をするリスク
土地や建物などを1人の相続人が相続するのではなく、法定相続どおりの相続人が共同で所有するという登記を選択する方も少なくはありません。
一見すると、公平で相続人同士のトラブルも少なく、シンプルで分かりやすい良い方法のようにも見えますが、実際は登記後に最もトラブルに発展しやすい相続登記の方法なのです。
共有名義で登記をした場合、登記をした相続人全員が所有者となります。そのため、持分のみの売却ではなく、1つの不動産として売却をする場合などには、名義人全員の合意が必要となります。
また、共有名義にすることで、未登記の場合と同様に他の所有者の持分が差し押さえられてしまうといったリスクや、次の世代への相続が発生した場合に更に煩雑化してしまうリスクなども考えられるのです。
→詳しくはこちら「【不動産と相続】もめるケースとは?土地・建物の遺産分割方法」
行方不明や認知症の相続人がいる場合
相続登記には、下記の3つの方法があります。
・法定相続分による相続登記
・遺言による相続登記(遺贈登記)
・遺産分割協議による相続登記
法定相続分による相続登記は、原則として相続人全員で行いますが、相続人の1人が単独で申請を行うこともできます。したがって、行方不明者や認知症の相続人がいても、他の相続人で相続登記を行うことはできます。
ただし、単独で相続登記をした場合、不動産を売買する際などに必要となる登記識別情報は、申請した相続人にしか通知されないため、注意が必要です。
また、遺言による相続登記(遺贈登記)も、遺言書で指定された相続人や遺言執行者が申請を行うため、他の相続人が行方不明や認知症であっても相続登記は可能です。
対して、遺産分割協議による相続登記を行う場合、まずは相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。そのため、行方不明や認知症の相続人がいる場合、そのままの状態では遺産分割協議すらできません。
認知症などで判断能力が低下している相続人がいる場合、まずは成年後見の申立てを行い、後見人を選任します。その後、家庭裁判所によって選任された後見人が、認知症の相続人(被後見人)の代理で遺産分割協議に参加して手続きを進めていくことになります。
→詳しくはこちら「成年後見制度について」
行方不明の相続人がいる場合は、必要となる対応が状況によって異なります。
例えば、連絡を意図的に無視されている状態であれば、行方不明の条件には当てはまらないため、遺産分割協議に参加するよう連絡をし続けるしかありません。
それでも応じてもらえない場合は、遺産分割調停の申立てを視野に入れる必要があります。
連絡を無視されているわけではなく、本当に行方不明になっている場合には、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てます。家庭裁判所によって選任された不在者財産管理人が、後見人と同じように行方不明の相続人の代理で遺産分割協議に参加することになるのです。
しかし、行方が分からなくなっている期間が1週間や1か月といった短期間では、不在者財産管理人を選任することはできません。一般的に1年以上行方不明の状態で、不在者財産管理人が選任されます。
そして、行方不明になって7年以上生死不明の状態であれば、失踪宣告の申立てを行うことになります。失踪宣告が認められると、行方不明者は死亡したとみなされるのです。
→詳しくはこちら「行方不明の相続人~不在者財産管理人~」
しかしながら、上記のように行方不明の共有者等それぞれに不在者財産管理人や相続財産管理人を選任し管理するのは非効率のため、相続登記の義務化等に伴い制度の見直しが行われています。
この見直しにより、所有者不明の土地・建物の管理に特化した財産管理制度、不明共有者がいても共有物の利用や処分を円滑に進めることができる共有制度が創設されるのです。
相続登記後の不動産の活用
せっかく相続登記を行っても、自分自身が利用する予定がないからと、土地や建物などの不動産を活用せずに持て余してしまっている方も少なくはありません。しかし、土地や建物などの不動産は、活用していなくても維持費や固定資産税などが発生してしまう財産です。
不動産をただ所有しているだけではなく、うまく活用することで不動産にかかる維持費や固定資産税を賄える可能性があります。相続登記後の不動産の活用は居住や売却に限った話ではなく、活用していない不動産の売却益を元手に、アパートなどの収益物件を購入するなどといった、状況に応じた様々な方法があるのです。
活用できないまま放置している不動産、なかなか買い手がつかない不動産などを所有されている場合は、次の相続への影響も考慮した最適な活用方法を専門家に相談されることをおすすめします。
使っていない不動産でも早めに相続登記を
相続登記の義務化が施行前であっても、相続登記をしないままの状態ではトラブルが発生してしまうリスクが伴います。
早い段階で相続登記をしておくことで、次の世代への負担も減らしつつ、トラブルの発生を未然に防ぐことにも繋がります。
煩雑化していない相続登記であれば、専門家へ依頼せずとも自分で手続きを行うことも可能ですが、司法書士等の専門家への依頼も3万円~7万円ほどで可能です。
内容が複雑な相続登記や、平日の日中は仕事などでなかなか書類収集の時間をつくれない場合などは、司法書士等の専門家への依頼をおすすめします。
相談無料
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※注意※
記事の執筆後に法令改正等が行われている場合、内容が古い可能性があります。法的手続きをご検討中の方は、弁護士・税理士・司法書士等の専門家への確認・相談をおすすめします。
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